まず「憎いほど男殺し」というタイトルにビビっときた。それで鑑賞してみると、これまた主演の女王様が実にいい。女王様と言っても居丈高なボンデージに身を包んだり、ムチを振り回しているわけではない。生まれたまんま、裸の女王様なのである。しかも、これまで男が女にしてきたような、サディスティックな言葉責めだけで男を焦らしている。
『ほら、いいの? ねぇ正直にいいって言ってごらんなさいよ』
と今までのエロ本の常識を覆すようなシチュエーションが画面の中で展開されているのである。裸で抱き合って、女の方が時にはキツく、そして時にはやさしく男を責めている。それで男はチンポ汁をダラダラと噴出させて『もう、もう我慢できません、オマンコください』と言いはしないがチンポで語り、極限まで我慢させられた末に素股で放出。男優が見せた『心の底からイキました』と言わんばかりの虚ろな目が印象的な作品であった。そこで女王様をやっていたのが水城千春という名前の人。スゴイ女王様がいるもんだと感動して会ってみると、女王様は今年(1995年)の6月に名前を変えていた。
「三代目葵マリー」
なんと、ものスゴイ名前に変わっていた。取材に同行してもらったカメラマンの山本陽光先生も驚く女王様の大看板だ。なぜ陽光先生が驚くかというとこの人、基本的にマゾ系。少なくとも女をイジメて喜ぶタイプではない。それで女にやさしいかと言うとそうでもなく「お姉さんに可愛がってもらいたい」と思うタイプ。それで時にはキツく叱ってもらいたい……。というわけでやっぱりマゾ。わたくし荒玉もマゾ系かもしれないが人に指摘されても認めない強気のマゾ。そんなだから、たぶん本質はマゾではないのかもしれない。とまぁそんな取材側の性癖を詳しく知りたい読者などいないと思うから、話を三代目葵マリー女王様に戻しましょう。
待ち合わせ場所はコアマガジン編集部で、女王様を呼びつけるとは何とも恐ろしい編集部である。
「女王様が不機嫌な顔でムチ振ってきたらどうするんですか、編集長」
と責めているうちに三代目はやってきた。意外にもニコやかな表情だった。
「こんにちは!」
と、まるで保母さんのような笑顔。安心してそれぞれが挨拶を交わしているとカメラマン陽光先生の前で、一瞬、女王様が「あっ!」と言ったような気がした。もしかして陽光先生、客として三代目に会った経験があるのではないかと思ったが、特になんの会話も続かない。女王様の反応は何だったのか……疑問を残しつつ取材陣ご一行様、インタビュー場所へ移動したのであった。
「世間の人はSMを勘違いしていると思うんです。私のプレイは『憎いほど男殺し』のビデオのまんまなんです」
女王様と言えばボンデージ&ムチ。その影さえ見えないプレイ。あれが本物のSMだとすれば、今まで抱いていたイメージは総崩れになってしまう。
「ムチや浣腸はM男に頼まれればやりますよ。でも私が積極的にやることはない。本質的にM性を持っている男の人は結構多いと思うけど、みんな痛いってイメージを持っているからSMに近づいてこないんじゃないですか」
頷く陽光&荒玉。
「私はそういう間違ったイメージを崩したいんですよ」
三代目のSMは自分も裸になる。勝手なイメージで言えば、天から下りてきて一緒にプレイする感覚か。だとすればまさに素人M男たちにとっては、逆に天に捧げたくなるほど素敵な女王様ということになる。こうなると、気楽だ。女王様に失礼な質問はタブーという印象があるから気を使っていたのだが、質問の展開も早くなる。
「初体験はいつだったんですか?」
と、先陣を切って聞いたのは陽光先生。
「それは……15歳のときでした。相手は4つ上。最初のうちは黙って相手に任せていたんだけど、そのうち下から見上げているのがイヤになってね。上にいる相手の目がね、なんかムカつくようになって。見下されているような気分で」
いわゆる正常位。
「それでセックスがイヤになって。単調でありきたりな出し入れが繰り返される、そういうのがイヤになったんですよ」
それである日、ひょんなことから上になってみた。いわゆる騎乗位。
「上になってパッと目を見開いてみたら、世界が違ってたんですよ。爽快な世界が広がってた」
三代目はここから旅立つのだった。
「男と別れまして、以来、今まで普通の男女の、いわゆるお付き合いみたいなものはしていないですよ」
素人時代の三代目は人並みの遊びもしていたという。酒は飲めないがディスコで踊るのが好きだった。当然、ナンパ師たちが群がってくるが、しかし、そこでも女王様は女王様であった。
「男が寄ってくる。それで私も気に入ってダンドリふんでホテルへ行こうということになる。でもそのとき私ははっきりと言うんですよ。私は自分がリードするセックスじゃないとイヤだからね、と」
絶対自分がリードしなくちゃ気が済まない。そんな三代目の思想が『女は抱くもの、男は犯すもの』というもの。三代目は女王様であると同時にレズでもあると公言している。
「子供の頃から姉御肌だったんですよ。女の子は好きでした。男と遊ぶことなんてほとんどなかった」
そういう三代目だから、かなり特殊な子供時代を過ごしたらしい。
「人と同じことをするのが大嫌いでね。運動会もわざと人より遅れて入場したり、かけっこも、みんなが一生懸命走っているところを、一人歩いてゴールしたりね。えらく怒られたけど。そう、注目されるのが好きなんですよね、どんな手段をつかってでも(笑)」
負けず嫌いな人間は、自分が負けると思う勝負には手出しをしない。それが勝利の方程式なのだ。また、三代目は裕福な家庭の一人っ子お嬢様だった。
「学校の送り迎えはハイヤーだったし、お小遣いもそれなりに貰ってたし。だから大人の世界で育った感じで、友だちも少なかったかな」
一人っ子お嬢様として、俗世間の色に染まらないまま大人になる。それでセックスを覚える。しかし、人と同じことをするのはイヤ。男に見下ろされているのはイヤという本性が、自然と女王様セックスに走らせた。だから、これは誰かに教えてもらった快楽の道ではなかった。
「私は、自分のやっていることがSMで、自分の立場が女王様ということに気付いていなかった。意識したのは、プライベートでやっていることをしてお金を稼げるということを人に聞いて、この世界に入ってからなんですよ」
まさに天性の女王様。いま活躍している女王様の中には「かっこいいから」との理由だけで看板を掲げている偽物も多いらしい。固定観念とは実に情けないもので、その偽物が正統派としてイメージされがちな世の中。だから三代目のやっている行為は『特殊なSM』と呼ばれることも多いと言う。それでもちゃんと本格派には理解されている証明が、天下の葵マリーの襲名であり、プライベートでの3人の奴隷の存在。
「奴隷だからって厳しくするだけではないですよ。ひとりは“そばにいるだけで幸せ”と言ってる駅長さん。50代かな。マッサージするのが好きでね。ときどき“女王様、お身体の具合はいかがですか”と電話がかかってきますよ。家にきて掃除することもあるし、赤いTバック穿いて外で座っていることもある。でも、それも本人が望んでいることを、私が察して命令しているだけ。無理強いではないんです。そこを勘違いしがちなんですよね、知らない人は。奴隷と女王様は精神的なつながりがあって初めて成立するんですから。私にとって奴隷はかわいい存在です。だから奴隷が女王様に浣腸してみたいと言えば、やらせてあげます」
浣腸まで…。これまでの固定観念を捨てねば理解できない女王様。しかし自分の持っているM願望を、素直に引き出してくれそうな期待は大きい!
「取材を承けてると“この人はいいM男クンになりそう”と感じる人は、結構いますよ」
かなりドッキリする陽光先生&荒玉。すかさず空気を察する三代目。
「そうね、お二人だったら…」
と言い、陽光先生の目をジッと見つめる。そしてニッコリ。
「山本さんなんか、いいM男クンになるかも。目の奥が語ってますよ(笑)。女王様と奴隷は目で語り合うんです」
目の奥底から照れる陽光先生。出会った瞬間に「あっ」という声を聞いたのは、やはり間違いではなかった。あれは「いい(M)男!」との意味だったのだろう。以降、撮影に入ったが、カメラを構えているとき以外は目を合わせられない山本陽光。「目標は日本一の女王様になること」という三代目葵マリーは、やさしく見つめているのだった。