プレイが具体化したのは26歳のとき。すでに結婚して撫子さんは夫がある意味待ち望んだ「人妻」となっていた。きっかけは「禁欲」だった。
「転職したんですよ。そのとき研修ということで寮の相部屋に入れられた。半年間も。それで性的にパンパンになって。新卒の後輩たちはトイレで処理してましたけど、妻帯者だからそんなこと沽券が許さない。さすがにもう頂点まで達した感じで、家に戻ってカミングアウンしたんです。頼むから他の男とやってくれないかと」
それまでそんな素振りはまったく見せない、どころか、そんな性癖を持つ人間がいるということすら知らなかった撫子さんは拒絶した。そして寝込んでしまった。しかし、思い込んだら一直線の夫がそれで引き下がるわけがない。
「じゃあ性感マッサージというのがあるから、それぐらい受けてくれてくれてもいいじゃないかと。挿入はないから、普通のホテルマッサージに毛の生えたようなものだから、とかなんとか口説いて連れて行ったんです。スポーツ紙のエロ広告欄で見つけて。結局、挿入は未遂で終わりました」
大学時代のエピソードでも推測できるように、点火した夫の炎は天まで燃え盛るか、一気に消えるかのどちらか。半年間の禁欲生活の末のカミングアウト直後だから、当然のように炎は燃え盛った。
「じゃあ次は話を聞きに行こうと。某スワッピンググループが新聞広告を出していた。そこに“話を聞きに行くだけだから”と妻を説得して行ったんです。そしたらもの凄く誉められまして。その年齢で、こういう世界に興味を持つとは大したものだ、素晴らしい、ぜひ仲間に入ってくださいと。でも雰囲気が微妙で。向こうの方では幸薄そうな女性が背中を向けて座っていた。それで平均年齢を聞いたら40代が中心だと。それは20代のカップルが来たんだから喜ばれますよね。でも最初はむしろベテランの方がいいだろうと、ある日、妻を説得して“今から行くから紹介して”と電話して行きました。でも本人が土壇場で嫌がってしまって。結局、機嫌は直らずに話は流れたんです」
家に帰ってシクシクと泣く妻に夫は優しく声をかける。「また次、がんばろう」と。思わず顔を上げる妻。「ここは“ごめん、もうこんなお願いはしないから”じゃないの?」とばかりに夫の目を見つめたが、欲望達成へ猛進中の夫の瞳には、一点の曇りもなかったという。
「結局、お願い、嫌です、お願い、嫌ですの繰り返しで」
落胆する夫に、ついに妻が譲歩案を出す。
「そんなに言うんだったら、40歳になったらしてもいいわ」
咄嗟に思いついた先延ばし案だった。夫が言葉を足す。
「彼女、人間は40歳の大人ともなったら、もうセックスはしないと思ってたみたいです」
「そうなんですよ。とにかくその場を逃げるために言ったんですけど……」
恥ずかしげにうつむく妻。その隣で誇らしげに夫は言い放った。
「けど40歳になったら“さあ約束だ”と、眠り爆弾は正確に爆発したんです」