やると言ったらやる、やらないと言ったらやらない……夫は26歳の時点で、きっぱりと諦めた。ただ、40歳になったら愛する我が妻が《寝取られ妻》になるという輝かしい未来が待っている。それまでに準備しておかねばならぬことは山ほどあった。
「まず、そういう世界は普通にあるということを、ちゃんと理解してもらわないといけない。それで40歳になるまでコアマガジンさんはもちろん、フランス書院のソレ系の官能小説などの“参考書”を読ませ続けたんです。徹底教育、洗脳ですね」
奥さんはどんな気持ちで読んでいたのだろうか。
「読むくらいならいいかなと」
素直な人だ。14年間の教育は役立ったのだろうか。
「彼女は“心ならずも反応してしまう女たち”という物語を読み耽ってきたから、そういう女になった。野獣のように、というわけではない。だから“サセ子”ではなく“サレ子”なんです。教育的な女になっている」
本格的なデビューはカップル喫茶だった。
「自分で言うのも何ですけど、店内に入ったら彼女、きれいで目立っていました」
夫が謙遜して言う。お世辞抜きに、それは間違いないだろう。美しい上に清楚なオーラも放っている。そこに集う野人たちが放っておくはずがない。
「いきなりガマクジラみたいな女性がいたんです。あとでわかるんですけど、その店の主みたいな存在だった。それで僕がガマクジラに捕まった途端に奥から単独男性がぞろぞろと出てきて彼女の周囲に集まった。でも僕は捕まってるからコントロールできない。まあ、そんな初体験でした」
撫子さんは好意的な感想を持たなかった。40歳まで待ったとはいえ、そもそも彼女自身は積極的ではないのだ。
「カップル喫茶は衛生的に問題ありそうだし、自分でコントロールできないんで、もうやめようと。彼女も、もう嫌だと。それでまあ、説得は続くわけです。いい方法はないか。そんなときにスワッピングのベテランの方にアドバイスを受けたのが“セックスを見に行く、見ているだけだから”と誘えばいいと」
すぐに実践した。撫子さんは渋々ではあるが同意した。しかし「服を着たまま、隣の部屋から覗くだけという話だったんです。でも実際には違ったんです」とうつむく。
「実際には……犯されたんです」余裕の夫が嬉しそうに言う。
「他人のセックスを見て興奮して、濡れていたらやっちゃおうという段取りで。彼女は言葉とは裏腹に濡れていた。それで犯されたんです